―競馬情報詐欺のリーディングケースを分かりやすく解説―
平成26年8月27日、横浜地方裁判所は、競馬情報会社とその代表者に対し、利用者が支払った競馬情報料など約4,900万円の返還を命じる判決を言い渡しました(損害賠償請求事件・平24(ワ)5157号、一部認容・一部棄却、確定)。 競馬情報料名下で約4,500万円もの支払いが行われ、それを「詐欺の不法行為」による損害と認めた点から、競馬情報詐欺を考えるうえで重要な裁判例の一つといえます。
目次
1 どんな裁判だったのか(事案の概要)
この裁判は、いわゆる「競馬情報詐欺」をめぐり、利用者が情報提供会社とその代表者に対して、支払った競馬情報料などの返還を求めた事案です。 原告の男性は、電話で「競馬の勝ち馬情報を教える」と勧誘を受け、情報料を支払えば競馬で勝てるようになると信じて、約1年半の間に合計で4,000万円を大きく超える金額を振込みました。
勧誘を行ったのは、競馬情報会社の従業員とされる人物らで、「会員のグレードが上がるほど良い情報が得られる」「インサイダーのレースがある」「確かなレースがある」などと説明し、情報料や「弁護士費用」などの名目で支払いを求め続けました。 しかし、実際には提供された競馬情報はほとんど的中せず、原告は大きな損失を抱えることになり、会社と代表者らを相手に損害賠償請求訴訟を提起しました。
2 裁判所が「詐欺の不法行為」と判断した理由
横浜地方裁判所は、競馬情報会社側の行為を「詐欺にあたる不法行為」と認定しました。 その理由として、判決は次のような事情を重視しています。
- 実際には信用性や有用性が認められない競馬情報であるにもかかわらず、「確率の高い情報」「確かなレース」「インサイダーのレース」などと説明し、あたかも確実性の高い情報であるかのように装っていたこと。
- 情報料は当初は数万円程度から始まったものの、次第に数十万円から100万円以上へとエスカレートし、最終的には100回の振込で総額約4,500万円に達していたこと。
- 情報の出所や有用性・信用性を裏付ける説明や証拠は一切示されず、情報会社側も裁判でその有効性を裏付ける立証ができなかったこと。
さらに、裁判所は、日本中央競馬会(JRA)や国民生活センターが「必ず当たる競馬情報はあり得ない」「高額な競馬情報料トラブルに注意」と注意喚起している点にも触れ、競馬の性質上「確実な勝ち馬情報」はそもそも想定しがたいと評価しました。 このような事情から、情報会社側の勧誘・請求は、信用性も有用性もない情報を口実に多額の情報料を支払わせた詐欺行為であり、不法行為責任を負うと判断されました。
3 会社だけでなく代表者個人の責任も認めた点
この判決が重要なのは、情報会社だけでなく、その代表者個人の責任も明確に認めている点です。 会社の代表者は、設立前から従業員らとともに競馬情報の提供を事業として行っており、勧誘の際に使われた振込口座や連絡先電話番号も代表者本人名義のものが多く含まれていました。
裁判所は、こうした事情から、代表者は従業員らと共謀し、組織的・計画的に競馬情報料名下で詐欺行為を行っていたと認定しました。 そのうえで、共同不法行為に基づく代表者個人の責任と、代表者や従業員の行為が会社の職務として行われたことによる会社の責任を認め、会社と代表者に連帯して支払いを命じています。 会社設立前の支払分についても、設立前後を通じて実態は変わっていないとして、会社の責任を否定しなかった点も、実務上参考になる部分です。
4 被害者の「軽率さ」と過失相殺の問題
この事案では、原告が約1年半の間に100回もの振込を行い、合計約4,500万円を支払っていたことから、「被害者側も相当軽率ではないか」という点が問題になりました。 判決も、「いかに冷静さを欠いていたとはいえ、総額約4,500万円もの多額の振込送金をしたことは軽率である」と述べています。
もっとも、裁判所は、情報会社側の不法行為の悪質性を重視し、「当事者間の公平の見地から過失相殺をすべき事情があるとまではいえない」として、過失相殺を認めませんでした。 詐欺商法の事案で、加害者側の故意・悪質性が高い場合には、被害者側の落ち度が一定程度あっても、過失相殺を慎重に考えるべきだという方向性を示した点が重要です。
5 最終的にいくら認められたのか(認容額の内訳)
原告は、支払った競馬情報料等約4,492万円、慰謝料200万円、弁護士費用450万円の合計約5,142万円の支払いを求めていました。 これに対し裁判所は、情報料等の全額は不法行為と相当因果関係のある損害として認め、慰謝料は否定しつつ、弁護士費用として450万円を認めました。
その結果、会社と代表者に対し、合計約4,942万円と遅延損害金の支払いが命じられました。 つまり、慰謝料部分を除き、支払った競馬情報料の全額と、その回収のために要した弁護士費用が認められたことになります。
6 この判決から分かる「競馬情報詐欺」のポイント
この横浜地裁判決からは、競馬情報や他の情報商材のトラブルでも役に立つ、いくつかの重要な判断のポイントを読み取ることができます。
- 「必ず当たる」「確実な情報」「高確率・高配当」をうたっても、情報の信用性・有用性を裏付ける具体的な根拠が示されない場合、詐欺的と評価されやすいこと。
- 情報料が少額から始まり、勧誘によって段階的に高額へエスカレートしていくパターンは、違法性判断において重要な事情となること。
- 会社とその代表者・従業員が一体となって勧誘を行っている場合、会社だけでなく代表者個人の責任や、会社設立前の行為に対する責任も検討されうること。
- 被害者に一定の軽率さがあったとしても、典型的な詐欺商法では過失相殺が否定される場合があること。
競馬情報サイトや情報商材を利用して多額の支払いをしてしまった場合でも、勧誘内容と実際の情報の実態、支払の経緯を丁寧に整理すれば、この判決のように返還を求めうる余地があります。 同様の競馬情報トラブルでお悩みの方は、広告、メール、通話記録、振込明細などの資料をできるだけ保存し、早めに専門家へ相談することが重要です。