平成26年8月27日、横浜地方裁判所は、競馬情報会社とその代表者に対し、利用者が支払った競馬情報料など約4,942万円の支払いを命じる判決を言い渡しました(平24(ワ)5157号、一部認容・一部棄却、確定)。
この判決は、競馬情報詐欺を法的にどのような構成で捉え、誰にどの根拠で責任を負わせるかを具体的に示した裁判例として重要です。
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この判決で問題になった法律上の責任
この事件では、原告は、競馬情報料名下で支払った合計4,492万5,000円、慰謝料200万円、弁護士費用450万円の合計5,142万5,000円を請求し、代表者個人に対しては民法709条、715条、719条、会社法429条、会社に対しては民法709条、715条、会社法350条などを根拠に責任を主張していました。
つまり、この裁判では単に「だまされたから返してほしい」というだけではなく、誰が、どの条文に基づいて、どの範囲で損害賠償責任を負うのかが正面から争点になっていました。競馬情報詐欺の実務では、まさにこの「責任主体の切り分け」と「法的構成の組み立て」が重要になります。
基本となるのは民法709条の不法行為
競馬情報詐欺の中心にあるのは、まず民法709条の不法行為責任です。この判決でも、裁判所は、信用性も有用性もない競馬情報を、あたかも確実性の高い情報であるかのように装い、それを口実に多額の情報料等を支払わせた行為を、詐欺行為であり損害賠償責任を負うべき不法行為と判断しました。
ここで重要なのは、裁判所が「100%当たる」といった露骨な断定がなければ責任を否定したわけではない点です。判決は、「確率の高い情報」「確かなレース」などの勧誘でも、情報の実体や裏付けがなく、利用者に誤信を与えて多額の送金をさせたのであれば、不法行為に当たりうるとみています。
代表者個人には共同不法行為責任が認められた
この判決では、代表者個人について、単なる会社の役員としてではなく、従業員らと共謀して詐欺行為を行った者として共同不法行為責任が認められました。裁判所は、代表者が会社設立前から従業員らとともに競馬情報の提供を行っていたこと、勧誘当初に伝えられた連絡先や振込口座が代表者本人名義であったことなどを重視し、組織的・計画的に詐欺行為を行ったと認定しています。
その結果、代表者は民法719条1項に基づく共同不法行為責任を負うと判断されました。実務上も、サイト運営会社だけでなく、実際に勧誘に関与した代表者や実質的運営者まで視野に入れて請求を構成することが重要であると分かります。
会社には会社法350条と民法715条の責任が認められた
会社側については、裁判所は、代表取締役や従業員の行為が「会社の職務を行うについて」されたものだとして、会社法350条および民法715条1項に基づく責任を認めました。競馬情報の提供それ自体が会社の事業であり、その営業活動として勧誘と情報料請求が行われていた以上、会社も代表者と連帯して賠償責任を負うと判断したものです。
この点は、利用者から見ると実際に電話してきたのが従業員であっても、請求先を従業員個人に限定する必要はないことを示しています。会社として運営され、従業員や代表者がその職務として勧誘していたなら、会社自体の責任を追及できる可能性があります。
会社設立前の支払分まで会社責任を認めた意味
この判決で実務上とくに参考になるのは、会社設立前の支払分についても会社の責任を認めた点です。裁判所は、会社が設立されたのは勧誘開始からわずか2か月後であり、設立前後を通じて詐欺行為の実態に変わりはないとして、設立後の会社が全体について責任を負うと判断しました。
情報商材や競馬情報サイトの事案では、運営主体が途中で法人化されたり、名義だけを切り替えたりすることがあります。この判決は、形式的な名義変更だけで責任逃れができるわけではなく、実態に即して一体として評価されることがあると示しています。
会社法429条は主張されていても、判決の中心ではなかった
原告は、代表者個人に対して会社法429条1項の責任も主張していましたが、判決の結論は主として民法719条1項、会社法350条、民法715条1項に基づいて組み立てられています。つまり、本件では、代表者の第三者に対する役員責任を正面から論じなくても、共同不法行為責任や会社の職務行為責任で十分に結論を導くことができたということです。
この点からすると、実務では、条文を並べるだけではなく、どの責任構成が最も事案に即していて裁判所に伝わりやすいかを意識する必要があります。とくに、代表者が実際に関与している事案では、共同不法行為として捉える方が分かりやすい場合も少なくありません。
この判決から実務上学べること
この横浜地裁判決は、競馬情報詐欺の事件では、相手方を一社だけに限定して考えるのではなく、代表者、従業員、実質運営者、法人格の変遷まで含めて全体像を捉える必要があることを示しています。また、請求原因も一つに絞るのではなく、不法行為、共同不法行為、会社法上の責任、使用者責任といった複数の法的構成を視野に入れて主張立証することが重要であると分かります。
競馬情報サイトや他の公営競技情報サイトの被害では、誰に請求できるのか分からないまま相談に来られる方も少なくありません。しかし、勧誘の経緯、送金先口座、連絡先、サイト運営体制などを整理していくことで、責任を負うべき主体を特定し、法的な返還請求につなげられる場合があります。